アスイクでふれあい広場サテライトのコーディネーターを担当している藤田です。
2023年の8月にNPO法人School Voice Projectが主催している韓国の教育視察ツアーに参加させていただきました。
参加目的は、自国や自分の当たり前から一度離れて、韓国で大切にしている価値観や文化に触れることでこれからのよりよい教育を目指すこと。
韓国は教育と政治が密接に関わっており、政権交代が起こるたびに教育方針にも影響がでます。
また、日本よりも競争社会のため、いい大学に入学しよう・いい企業に就職しようと知識や能力を高める意識が高いです。
そのため、若者のひきこもりや自殺も多く社会的な課題となっています。
一方で市民活動がとても活発で、市民セクターによる教育の実践が先進的に取り組まれています。
「代案学校」「代案教育」と呼ばれるオルタナティブな教育や性教育や環境教育にも取り組んでいます。
今回は下記の5か所のみなさんから韓国教育の状況や取り組みについて学び、そして交流させていただきました。
①全国教職員労働組合
②アハ!ソウル市立青少年性文化センター
③コヤン自由学校
④実践教育教師の会
⑤PEACE MOMO
韓国教育のイシューについて
2023年7月18日に2年目の小学校教員が学校内で自殺してしまうという事件がありました。
個人の携帯電話に深夜までかかってくる保護者からのクレームや、生徒に教えること以外での膨大な業務に苦しんでいたという背景があるとのことでした。
この事件を機に現在も若い教員が中心になって毎週のように集会が開かれ、「教権」が侵害されていることを主張しています。
「教権」とはきちんと概念化されていませんが、ここでは教師が現場で安心安全に圧力を受けずに教える権利のことを指しています。
韓国には児童虐待防止法という法律がありますが、保護者が教師のやり方に不満を持っていると過剰に虐待だと申告されてしまう現状があるそうです。
申告されてしまうと、教師の意見を聞くことなく、すぐに調査や処罰を受けることになってしまう。
そのため、教師たちはいかに保護者からクレームを受けずに教育できるのかを考えるため、萎縮してしまい自信がなくなってしまっているようです。
教権侵害のほかにも校内暴力や統合教育などの教育現場でのイシューはありますが、背景として競争社会がゆえに、いい大学や就職するために躍起になってしまうせいで、信頼できる人々も少なくなってしまい、保護者も教員も子どもたちも孤立状態に陥りやすい社会になっているのかもしれません。
日本も決して他人事ではないと感じています。
日本と韓国の教育制度はよく似ていますし、抱える問題も同じことが多いです。
いい大学にはいるために、韓国では塾やインターネット講師に依存するため教育費の負担が大きく、少子化の原因の1つとも言われています。
受験戦争は所得格差の問題とすり替えられていると指摘する声もありました。
代案学校から子どもたちの今をみる
韓国にも不登校やひきこもりの問題があります。
韓国は受験競争が激しく、ストレスを抱えている人も多くいます。
そのため、競争社会から離れ、子どもたちの主体的な学びや多様性を重視するオルタナティブな教育が日本よりも進んでいます。
オルタナティブスクールは、日本では不登校の子が通う場所としてのイメージが強いですが、本来はそうではなく独自の教育理念や方針に共感した子どもたち(家庭)が通う学校です。
今回はオルタナティブスクールである「コヤン自由学校」を訪問してきました。
この学校に通っている子ども達が夏休みにも関わらず、来てくださいました。
子ども達にこの学校で通っていて良かったことを尋ねると、同じメンバーでずっと成長できる友達の存在や自立心を育むことができていると実感していること、自分自身になぜこれをやるのかを問い続けられることがいいとの回答が返ってきました。
教育理念をもとにきちんと意味を持った取り組みが学校で行われているのだろうと感じました。
性教育や平和教育、自ら感じて学べる仕組みづくり
アハ!ソウル市立青少年性文化センターで行われる性教育は体験型のプログラムになっています。
このセンターと同様に韓国では57か所で性教育を学べるところがあります。
子ども達同士で学び合える仕組みになっていて、対話や体験を通じて文化を創っていこうという願いが込められています。
性教育=性行為とイメージする方も多く、あまり言葉にするものではないとタブー視されがちですが、「もっと近づきたい」などの恋愛的な感情、性に対する考え、自分の体に関することなど大きい意味を持つ言葉です。
このセンターでは性教育を通じて本人の持つ身体や感情をどうポジティブに育てるのかということに取り組んでいます。
平和教育と聞くと、戦争体験を聞いたりするイメージが多いかと思いますがPEACE MOMOでは体験型のワークショップで平和について考えることができます。
韓国の教権の侵害のような状況はどういう構造で生まれているのかをここで体感をして学ぶことができるのです。
なぜ自分が苦しい・しんどいと感じているのかそれは果たして自分だけなのか視野の広がるワークショップでした。
今、私ができることとは
こうした各団体での取り組みから教育の在り方や教育がいかに社会を変えられる力を持っているのかを学ぶことができました。
現在、私は不登校などの子どもたちの日中の居場所を運営しています。
自己と他者が交流する活動の場でいかに私たち大人が子どもたちのために「まなび」の仕組みをつくることができるのか、今回の研修のまなびをヒントに考えていきたいと思っています。