児童館の苦悩と展望

4月に発足したこども家庭庁に「こどもの居場所部会」が設置されたように、“居場所”は子ども政策の主要なキーワードの一つとなっています。

さまざまな居場所がある中で、その一丁目一番地ともいえる児童館はどのような課題を抱え、これからどうあるべきなのか。

宮城県児童館・放課後児童クラブ連絡協議会の会長をつとめる齋藤勇介さんに伺ったお話をもとに、まとめていきたいと思います。

なお、本記事の発信元はNPO法人アスイクであり、齋藤氏個人の主義・主張ではないことを付け加えておきます。

宮城県児童館・放課後児童クラブ連絡協議会会長の齋藤勇介さん。齋藤さんが代表をつとめる子育て応援団ゆうわのすてきな事務所にて。

そもそも児童館って、何のためにある?

まず基本として、児童館とはどういう施設でしょうか。

全国の児童館関係者が小倉大臣に対して提出した要望書から、抜粋します。

児童館は、すべての子どもが自由に来館して過ごすことができ、遊び及び生活を通じて、その心身の健康増進を図り、知的・社会的適応能力を高め、情操をゆたかにする児童福祉施設です。また、子どもが困ったときや悩んだときに、相談でき助けてもらえる職員がいる地域のこどもの居場所です。

シンプルにいえば、遊びなどを通して、子どもたちの成長を支えるだけでなく、子どもたちの困りごとも受けとめる居場所。

概ね0歳~18歳の子どもを対象としていますが、これだけ広い年齢の子どもたちとつながりを持ち、寄りそい続けられる施設は児童館の他にないでしょう。

また、児童館が対象としているのは子どもだけではありません。

保護者を対象とした相談・サロン・イベントといった子育て支援や、地域の子ども支援活動のサポートなどを展開している児童館もあり、子どもを中心として地域の様々な大人たちを支え、つながっていく場所としての役割も持っています。

児童館の機能をどのように定義するかは自治体によっても違いがありますが、参考までに仙台市の定義はこんな感じです。

  1. 児童健全育成機能
    自由来館児童への遊び場の提供に加え、遊びの指導や各種行事等を通して児童の健全育成を図ります。
  2. 子育て家庭支援機能
    親子を対象とした行事や幼児クラブの開設、子育て相談、子育てサークル等の育成などにより、子育て家庭の支援を行います。
  3. 地域交流推進機能
    地域との連携事業の実施や交流活動を通して地域コミュニティの活性化を図るとともに、子育て支援クラブや子ども会などの児童館を拠点に活動する、児童の健全育成を図る団体の育成支援を行います。
  4. 放課後児童健全育成事業(児童クラブ)
    昼間保護者が就労等により家庭にいない小学生の児童を対象に、放課後の遊びや生活の場を提供し、その健全育成を図ります。

仙台市は、原則全小学校区に児童館を設置し、児童館の中で放課後児童クラブも運営していますが、これは全国的に見ても手厚い内容といってよいと思います。

居場所の必要性が謳われる時代に逆行して、児童館は減少傾向

地域の子どもたちを0歳~18歳くらいまで関わることができ、さらに子育てをしている親や地域の方々も支えられる児童館。

その意義はこれからますます重要になることに意義を唱える方は少ないと思いますが、実態としては残念ながら全国的に減少傾向にあります。

また、児童館を今後廃止することを検討している自治体は、83ヶ所(11.8%)にも達するそうです。

減少する児童館と対照的に、放課後児童クラブは増加しています。

共働き世帯が増えつづけている中、保護者たちの就労支援といった視点で、放課後の預り機能をもつ児童クラブが急ピッチで整備されています。

ここから読み取れるのは、働く親たちにとって小学生の預け先がないという切羽詰まったニーズが優先され、子育て支援施設としてより手厚い機能をもつ児童館の政策的な優先順位を下げられしまっている構図です。

その背景には、保護者や経済界からのニーズの強さだけでなく、財政的な要因もあると思われます。

まず、児童館という箱(ハード)にかかる財政負担は、行政にとって小さいものではありません。

当然ながら施設は建てるだけで終わらず、その維持費は何十年にわたって継続します。

ましてや少子化で子どもが減っていく中、ハードを増やすという選択はハードルの高いものとなっています。

また、放課後児童クラブの運営費は国からの補助がありますが、児童館にはそれがなく自治体の負担となることの影響も大きいでしょう。

必然的に、維持費の負担が低く、より切羽詰まったニーズである放課後児童クラブを優先させようという流れになるのは不思議ではありません。

(専門的な内容を補足すると、児童館の運営費について国の支援がないわけではなく、地方交付税交付金の中に割り振っているというのが国の考え方のようです。しかし、地方交付税はさまざまな事業に使える財源であるため、自治体はさまざまな課題に取り組まなければならない中、児童館に積極的に交付税を使う自治体は少なくなります。平成24年度から児童館の運営費は地方交付税措置になり、一方の児童クラブの整備費は平成28年度から国の補助率が1/3から2/3に嵩上げされたことからも、国が主導して児童館から児童クラブへの移行を進めていったという見方もできます)

必要なのは児童館職員の社会的地位向上

以上のように、子どもの居場所の一丁目一番地である児童館が減少傾向にあるのが現状ですが、だからといって、児童館というハードを増やすこと自体があるべき姿ではないと思います。

大事なのは、施設ありきではなく、地域と協働・コーディネートしながら、地域の子どもたちが生まれたときから大人になるまで継続的に寄りそいつづけられるような機能が地域の中にしっかりと根付くことができるかどうか。

「地域全体が児童館」という言葉があるように、本来児童館は施設ありきではなく、地域全体を子どもたちを支える資源に見立て、コーディネートしていくことが本質的な立ち位置です。

児童館の機能は、児童館という施設だけでなく、学校の空き教室や公民館、そのほかの場所にあってもよいと考えられます。

そのような視点から改めて何が課題なのかを考えると、児童館職員の社会的地位が決して高いとは言えない現状は改善の余地があります。

具体的には、児童館職員に焦点を当てた認定資格がないこと、それにも関連して処遇の改善に目を向けられていないこと。

本来の児童館職員の役割に照らせば、発達段階も異なる0歳~18歳と関わり、保護者の支援も行い、地域のコーディネートもすることは、高い専門性が求められます。

しかし現状は児童館職員に対応した専門資格はなく、保育士や教員資格などが代替的に使われています。(そして、そういった資格は児童館以外の事業からも需要が多く、競争が激しい)

また、昨今の賃上げの流れを受け、政策的に優先されている保育士や児童クラブの職員は処遇改善に対象になっていますが、児童館職員にはそういった対象にすらなっていません。

地域の中で子どもたちを支える中核的な人材として児童館職員を位置づけ、その役割に見合った社会的地位、処遇や育成の仕組みをつくりながら、活躍の場として児童館をはじめとしたハードの整備を進めていくこと。

それが、これから児童館がすすむべき道ではないでしょうか。

<この記事に特に関連性のあるアスイクの事業>

仙台市荒井児童館

おまけ:子育て応援団ゆうわさんの民設児童館

今回はじめてお邪魔した子育て応援団ゆうわさんの新しい事務所。

普通の事務所かと思いきや、なんとそこは創造性と遊びゴコロがちりばめられた民設児童館でした。

CRECというおしゃれなロゴと木目調の概観。ここが事務所だと気づかずに何往復も素通りしてしまいました。。。

玄関には駄菓子屋。地域の子どもたちが気軽に立ち寄って、スタッフと自然に関わることができます。

切りの良い値段にすることで、子どもたちがお金を計算やお金を払いやすくするという、細やかな気配りが。

わたあめ機もあります。高いんじゃないですかと心配すると、原材料のザラメからかなりの量のわたあめを作ることができることと、地域のお祭りなどでもつかっているので、すでにもとは取れたそう。

玄関には2匹のモルモットもいます。最近は動物を飼育する学校も減り、家で動物を飼うことができない家庭も少なくありません。

モルモットに会いたくてこの場所に頻繁にやってくるようになった不登校の子どももいたそうです。

リビングの横には小さな子どもを連れた親子がくつろげるスペース。

ハンモックは子どもたちに人気のアイテムだそうです。

リビングには、食事のメニューも。このご時世にワンコイン以下という値段設定は、かなりリーズナブルですね。

夜は地域の保育士などが集まり、お酒を飲んだりしながら語り合うような日もあるそうです。

まさに、理想の児童館を体現しようという思いと、クリエイティビティがつまった事務所で、こちらの創造力も掻き立てられました。

この記事を書いた人

大橋雄介

NPO法人アスイク代表理事
社会福祉法人明日育福祉会理事長