「世界と私を見つめる」海外研修レポート



この度、多くの方々のご理解とあたたかいサポートを受けて、2022年6月中旬から1週間ほどのアメリカ研修に参加させていただきました。

研修で得た学びをアスイクのメンバーへシェアした勉強会での様子をもとに、コラムとしてレポートいたします。

(このレポートはNPO法人ウィメンズアイが主催している「グラスルーツアカデミー in Berkeley」という研修に参加させていただいたものです。)

この研修のテーマは「社会変革と地域民主主義」。

アメリカの西海岸カリフォルニア州バークレーという、アメリカで最も政治的・社会的に進歩しているといわれる都市を中心に訪問しました。


バークレーの街並み

バークレーの街並みは、美しく整備されている印象がありました。 道端にゴミが落ちていることもなく、各家庭の庭先も整えられています。

また街中を歩いていると「私たちはつながりを大切にしているんだ」という意識や雰囲気が感じとれました。

(左)バークレーの道沿いに設置された本棚 (右)小さな家々が立ち並んでいました

例えば、街のあちこちに古本を入れる本棚が設置されています。

読み終わった本をこの本棚に入れ、読みたい本をこの本棚から取り出す。

個人で本を所有するだけでなく、地域の人々とつながり知識を共有する(コモンズ)という仕組みが成り立っています。

そのほかにも、野菜の切り屑や食べ残しはコンポーズド(堆肥化)ゴミとし、地域で回収をしています。

地域で作った野菜を食べて、出たゴミはまた土は還す。 キッチンや食卓と畑も、食物を通して繋がっています。

量り売りをしているスーパーが多く、包装用のビニールもかかっていません。

スーパーでの買い物では、あなたは何を選ぶのか、と常に問いかけ続けられている感覚を得ました。

あなたは、ビニール袋に包まれた商品を選択するのか否か、オーガニックの製品を選択するのか否か。

さまざまな文化が入り混じる土地だからこそ、ひとつひとつの選択にも多様性が溢れていることを実感しました。

また多様な選択肢があるからこそ、「選ぶ力」が必要なのだとも強く感じました。

私にとっての“民主主義”とは?

今回の研修のテーマである「社会変革と地域民主主義」。

民主主義とは何なのか、参加者同士で考えや感じていることをシェアするワークが行われました。

みなさんは「民主主義」という言葉をどのように説明されるでしょうか。

ワークのなかでは、一見 民主主義のように思われても、実は選挙区が操作されていたり、声の大きい人が優位になるケースがあるということを知りました。

また、何事も良い状態を維持するためには「意識を向けること」が重要だというお話がありました。

平和も健康も、同僚や友人との仲でさえも、気にかけていなければ崩れてしまいます。

時が流れれば状態は変わるということを、大前提として理解しさまざまなことに目や意識を向けることの大切さを感じました。

ここからは、アメリカ滞在中に訪れた訪問先を詳しく紹介していきます。

訪問先1: エディブルスクールヤード

エディブルスクールヤードは、菜園を中心としモンテッソーリ教育をもとにした学習の取り組みです。

ガーデニングとキッチンの授業を通して、食べることから始まり、理科や数学、国語や歴史などの教科についても学びます。

エディブルスクールヤードの入口。菜園内は手作りの看板があちこちに設置されていました。

現在ではバークレー市内すべての学校でこの取り組みが取り入れられていますが、

地域の先生方へ思想やビジョンを浸透させるために何十年も時間をかけてきたというお話に驚きました。

すぐに変わらなくても、ゆっくりと時間をかけて変化していくものなのだと、植物の成長と同じように長期的な視点をもって活動されていることが感じられました。

キッチンのなかは見ただけでわかるようなイラストがたくさん!

エディブルスクールヤードでは大人が知識を与えるのではなく、子どもたちが視覚や味覚、感触から学んでいく環境を整えています。

また、子どもたちが「何のために私たちは学んでいるのか」という問いを持つまでもなく、

いま目の前で学んでいることが自分の暮らしにつながっているのだと理解できます。

私たちが暮らす地球や自分自身の体、体を生み出す水や食べ物など、身近な題材が大きなテーマとなって、

子どもたちが好奇心を持ちながら学びを深めている姿が容易に想像できました。

それぞれの作業台にはコミュニケーションカードは本格的な料理道具が揃っています。

訪問中何度も耳にした 「Feel Welcome」(私たちはあなたを歓迎しています) という言葉はエディブルスクールヤードでの学びの土台なのだと感じました。

あなたを歓迎する、あなたの居場所だよ、と伝えることはアスイクでの教室づくりでも大切にしていることであり、重なりを感じることができました。

訪問先2 ケンタクルファーム

ケンタクルファームは、アンとテリー夫婦が営むコミュニティであり、世界の課題を受け入れるコミュニティです。

世界で起きている課題に対して決して目を逸らさず、自分達のコミュニティの中にその課題を招き入れています。

コミュニティ内でファンドレイジングをしている女性が案内をしてくれました(右から二人目)

例えば、黒人奴隷の問題や移民の問題。

実際に当事者の方々をコミュニティのなかで受け入れ、互いの考えを受け止めながら解決を目指しているそうです。

地球の裏側で起こっていることだとしても決して他人事にはしない、というケンタクルファームの皆さんの強い思いを感じました。

創設者であるアンさん

また、創設者であるアンさんが「最後に伝えたいことがある」とお話をしてくださったことは広島・長崎の原爆に対する謝罪でした。

「原爆を落としてしまったこと、本当にごめんなさい。いつか、日本の皆さんに謝りたかった。」と。

アンさんの言葉を聞いて、「私自身が、日本の課題を他人事として見ていたのではないか?」とはっとさせられました。

いまでも思い出すと胸が締め付けられるほど、アンさんの深い愛に心が動かされました。

大切なことに気づかせていただいたと感じています。

訪問先3 好人庵

第二次世界大戦の孤児であり、バークレーで日本食レストラン、そして世界的なジャズバーを立ち上げた秋葉好江さんを訪ねました。

ずっと踊り続けてきた、という善江さんのダンスショー

お寺では、座禅をさせていただいたり、好江さんが踊りを見せてくださったり。

好江さんの明るさ、チャーミングさに驚きっぱなしでした!

仲睦まじい素敵なご夫婦でした

好江さんからは、ピンチはチャンス、仲間でさえもその時々で変わっていくものなのだから、と

変化を当たり前のように受け入れ、ご自身も柔軟に、でも自分の意志で決断している姿が印象的でした。

好江さんが伝えてくださった「自分を愛する」ということを胸に刻み、いつでも自分に正直に、素直にありたいと思いました。

訪問先4 カストロツアー

カストロ地区はLGBTQ運動の発祥であり、シンボルとして取り上げられる地区でもあります。

LGBTQの象徴であるレインボーが街のあちこちに掲げられています。

カストロ地区を回るツアーでは、「私たちの周りには不公平が存在しているんだ」という当たり前の事実に改めて気づきました。

不公平が起こっている事実に対して、マジョリティの立場にある人々は気づいても気づかぬふり、見ても見ぬふり。

そのような状況では、マイノリティの立場に立った人々は声をあげることができません。

さまざまな理由をつけて、ジェンダーをはじめとする不公平の問題について議論がなされていなかった過去があるのだとわかりました。

エイズで亡くなった方の象徴として、お一人に対して一枚お墓の大きさのキルトが縫製されています。

印象的だったのは、「LGBTなど多様性を理由に多くの子どもたちが命を絶ってしまう」という事実です。

レズ、ゲイ、などのラベルだけでは収まり切らない、その人のありのままが受け入れられる社会であるべきだと改めて感じました。

案内をしてくれたキャシーさん。ご自身のレズビアンとしての経験もお話ししてくださいました。

また、町全体から「組織して、歴史を変えていくんだ」という意志が感じられ、まさにここが社会変革の現場なのだと強く感じました。

訪問先5 AEDEN味噌

約10年前にAEDEN(叡伝)という屋号を構え、みそづくりワークショップやカフェを経営している摩利子クレディさんを訪ねました。

摩利子さんからは、自分がどんな場を作りたいのか、ビジョンを描き続けることの大切さを学びました。

イメージが描けていると、思いを共有できる仲間や協力者があらわれ、感覚的なことでさえも伝わっていると感じることができるとおっしゃっていたのが印象的です。

それだけイメージを丁寧に共有し、時間を共にされていたのではないかと感じました。

摩利子さんが今年オープンされたカフェの前にて。発酵食品が並ぶお弁当も絶品でした!

また、ご縁がある人や場所で長く続けていく、やりたいことや大切にしたいことは譲らない、など

自分の思いを強く信じることがイメージを実現させるための鍵なのだとわかりました。

訪問先6 Natura

Naturaはガン患者を保養するための場所として作られたガーデンです。

自然豊かな場所でハチドリが飛んでいました。

Naturaで過ごすなかで、風の音やにおいを感じながら人は自然と共に生きているのだ、と実感することができました。

自然のなかにいることで平和や癒しが訪れるのだと信じ、自然からのエネルギーを行動力にして楽しみながらこの場をつくったのだというお話が印象的です。

また、過去にアジアを旅行していた際にバスの隣の座席で人身売買の現場を目撃したというお話から「何をするのか、しないのか」という選択をすることの重要性、

目の前のことに対してアクションが起こせなくとも、世界を変える方法はあるのだという確信を持たせていただきました。

訪問先7 DEN SAKE

カルフォルニア・オークランドで初めての酒造であるDEN SAKEさん。

「ソムリエだったが、日本酒について聞かれるうちに興味をもち、酒造をつくることになった」という

自然の流れにのりながら決断をしてきたというお話にとても共感しました。

日本酒作りに必要な機材も手作り!

理想の味に向けて探究しつづけながら、次はティスティングルームを作りたい、当たり前のように日本酒を飲んでほしいと夢を語られている姿が印象的です。

材料や道具など何かが足りないように感じても、自分で作ってしまえばいいのだ!というパワーを感じました。

研修全体を通して

“すべては繋がっているのだ”と実感を得ることができた研修でした。

遠くで起きている事件も、世界で起きている気候変動も、決して他人事ではなく私に繋がっているのだとわかりました。

ワークの一部では、「正義」について参加者と一緒に考えや感じたことをシェアしました。

気づいたからには、自分の立場を表明することに力を注いきたいと考えています。

正確に伝わらなくとも、語ることで自分の言葉の精度をあげることができるのだ、という言葉の後押しを受け、

信念と思いやりを持って、パワーをシェアしあいながら変化を起こし続けていきたいです。

参加者それぞれのエピソードから、お互いの強みや感じたパワーを伝えあいました。

また、出会う人たちみなさんの、「人を思いやるパワー」に感激しっぱなしの毎日でした。

今回私は最年少の参加者でしたが、他参加者の皆さんの学び続ける姿勢がとても刺激になりました。

研修を通して、自分と周りを大切にすること、また思いやりをもって行動をしていくことの強さを感じることができました。

現地に行って素敵な人たちと出会い、ストーリーを聴き、自分で考え感じたことは、私の人生にとって大きな財産です。

アスイクの子どもたちへ、そして自分自身に対して、この学びを活かした行動を起こしていきたいと思います。

この研修にかかわるみなさま、そして快く送り出してくださったアスイクスタッフに心から感謝いたします。

この記事を書いた人

稲村 友紀