仙台市不登校対策検討委員会の委員就任にあたって考えること

今年度、仙台市が設置した不登校対策検討委員会の委員に就任しました。

この委員会が最後に開催されたのは平成30年度なので、5年ぶりの設置となります。

設置の背景にあるのは、下記のようないくつかの動きです(教育相談課資料より作成)。

委員会としての具体的な協議テーマはこれから設定されていくことになりますが、以下のようなことを検討していくべきではないかと考えています。

仙台市として向かう方向性・目標の明確化

多様な立場、意見の方々が建設的に議論を行っていくうえで、どういう方向に向かい、何を目指すのかの共通認識を形成することは不可欠です。

私としては、前記の教育機会確保法やそれに関連する通知等、そして社会の現状を踏まえれば、これからは不登校児童数を減らすことを目指すのではなく、すべての子どもが本人が望む学びの機会につながることができていることを目標とすべきではないかと思います。

不登校児童数が増えている背景には、いじめをはじめとした人間関係の問題、貧困などの家庭環境の問題、発達障がいなどの特性、教員の負担や採用難といった教育環境の問題だけでなく、学校に行くことがすべてではないという家庭、社会側の意識の変化など、多様な要因が折り重なっています。

そのような状況の中で、不登校の子どもがいなくなる社会を目指すというのは現実的でないばかりか、教育機会確保法の趣旨をはじめとした昨今の流れと逆行するように思います。

学校に再登校することも含めて、すべての子どもが自分が望むように、多様な形での学びの機会を保障されていることを目指す方が、子どもたち本人にとってだけでなく、家庭や教員たちにとっても心理的な負担は減るのではないでしょうか。

なお、私も委員を務める宮城県子ども子育て会議にて策定している「みやぎ子ども・子育て幸福計画(令和2年度~令和6年度)」では、今年度の中間見直しにおいて、従来の「不登校児童生徒の在籍者比率」から「教育機会を確保した児童の割合」へ指標の見直しを行いました。

参考:宮城県の指標

どこにもつながれていない子どもへの焦点化

仮に「すべての子どもが本人が望む学びの機会につながることができている」ことを目標とするならば、次の焦点となるのは、どこにもつながることができていない子どもたちへの対応です。

文部科学省の「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査問題」では、学校内外の専門機関等で相談・指導等を受けた小中学生の割合は年々減少し、R3年度時点では3人に1人以上がどこにもつながらずに孤立している可能性が明らかになっています。

文部科学省「COCOLOプラン」(令和5年3月)https://www.mext.go.jp/content/20230418-mxt_jidou02-000028870-cc.pdf

そのような子どもたちが、具体的にどのような属性で、どのような状況にあり、なぜどこにもつながっていないのか。

それを自治体レベルで明らかにし、現状をできるだけ的確に把握することなくして、目標に向かって限られた資源を効果的に投入することにはつなげられないはずです。

なお、どこかにつながることができている6割程度の子どもたちも、それが本当に子どもが望む形なのか、有効なものなのか、という問題についても、次のステップでは検証が必要だと思います。

どこにもつながれていない子どもたちの仮説と対応策

どこにもつながることができていない子どもたちの実態把握には調査が必要ですが、これまで見聞きしてきた現状から考えられる仮説はいくつかあります。

  1. 小学校低学年の子どもたち
  2. 特別支援教室から足が遠のいた子どもたち
  3. 利便性のよくない地域に住んでいる子どもたち
  4. 経済的に選択肢が限られている子どもたち
  5. 学校教育・行政の介入を拒絶する家庭の子どもたち

「1.小学校低学年の子どもたち」

文科省の調査にも表れていますが、ここ数年の相談ケースとして増えていると感じます。

半面、小学校低学年の子どもたちの受け皿は少なく、紹介できるところが少ないという問題があります。

その背景には、既存の高学年や中学生以上を対象とした居場所では、安全管理の面もふくめて一緒には受けにくいという状況があると思います。

小学校低学年の子どもたちを学校外の場所で受けとめる場合は、手厚い人員体制、通所の送迎サービスなどの対応が必要です。

「2.特別支援教室から足が遠のいた子どもたち」

特別支援教室に在籍している子どもは適応指導教室に二重登録できないという制約があるようです。

そういった子どもが特別支援教室に通えなくなると、選択肢が少なくなってしまうという問題が想定されます。

放課後等デイサービスという障害福祉サービスが受け皿になる場合もあるでしょうが、基本的には放課後の時間帯のサービスとなることや一定の自己負担が必要なことなどから、子どもたちのニーズに合わない場合もあるのではないでしょうか。

この問題に対しては、たとえば適応指導教室の登録要件を見直し、特別支援教室との重複在籍を認めるといった対応が考えられます。

「3.利便性のよくない地域に住んでいる子どもたち」

適応指導教室やフリースクールは数が限られるため、比較的交通の便の良い場所に設置される傾向があります。

そういった場所から離れた地域に住んでいる子どもは、どこにもつながれずにいる可能性が高いと思われます。

対応策として、アウトリーチ型支援の拡充、適応指導教室やフリースクールなどまでの交通費の補助、ICTを活用したサポートの充実などがあるでしょう。

「4.経済的に選択肢が限られている子どもたち」

適応指導教室が通所可能な範囲にあるものの、雰囲気などが合わずに利用しない子どもたちも一定数存在します。

経済的に余裕がない場合は、民間の教育サービスや会費制のフリースクールなどの利用は難しいです。

財源の問題はありますが、民間サービスの利用料を補助するクーポンなどの支給、あるいはフリースクールへの補助による受け皿の拡大を検討する必要があります。

「5.学校教育・行政の介入を拒絶する家庭の子どもたち」

それまでの経緯などから、保護者が学校と対立関係になってしまっているケースもあります。

中には「もう学校には行かせない」と保護者が強い考えをもっている場合も。

保護者だけでなく、子ども自身が他者からの介入を受け入れられない状態にあることも少なくないでしょう。

こういった場合の対応は極めて難しいと思いますが、利害関係の少ない民間の相談窓口の開設なども有効かもしれません。

モニタリング機能が必要

以上はあくまで仮説の一例です。

実際にはこれら以外の事情によって、どこにもつながることができていない子どももいるはずです。

いずれにせよ、どこにもつながることができていない子どもの情報を集約し、伴走、モニタリングしていく責任と権限をもった機能をつくっていくことが求められると考えています。

※本記事の内容はあくまで個人の意見であり、委員会として合意された内容ではないことを補足しておきます。

この記事を書いた人

大橋雄介

NPO法人アスイク代表理事
社会福祉法人明日育福祉会理事長